安全保障論

安全保障とは、ある集団が生存や独立などの価値ある何かを、何らかの脅威が及ばぬよう何かの手段を講じることで安全な状態を保障することである。

国際安全保障体制の理論

国際社会という視点で、安定的な世界秩序を維持する国際体制に関する理論も安全保障において主要な課題である。ここでは代表的なモデルや理論を述べる。

◯平和理論
国際秩序は力の不均衡や、国際経済の影響などによって安定と不安定の状態を歴史上長年行き来してきた。ここではその安定した国際秩序が維持されている国際関係の定式化を行った理論について述べる。

・単極平和論
圧倒的な力を持った大国の存在が世界を平和にするという理論である。この平和論の多くはパックス・アメリカーナを意味するが、中には世界政府思想などもある。

・双極平和論
圧倒的な力を持った二ヶ国(勢力)の存在が、お互いに拮抗することで結果として世界を平和にすると言う理論である。この平和論の多くは米ソ冷戦期を意味する。

・多極平和論
複数国による均衡、拮抗状態により世界秩序を平和に維持するという理論である。つまり、国連などの国際機関を中心とした平和論を意味する。

・民主的平和論
民主主義の政治体制を採用する国家同士では戦争に訴える可能性が少ないという学説である。主にブルース・ラセットによって論じられており、民主主義の国家が好戦的でないとは限らないが、歴史的な経験則においては民主主義の国家同士が戦争を行うことが比較的に少ない傾向があるとされる。従って世界中の国家の体制を民主化することによって、世界の安全保障は確保することができるという考え方の基礎となっている。相互に高度な民主体制を構築できれば、軍事バランスとは関係なく平和関係が維持できるという点で、他の安全保障論とは一線を画している。その発想の源流はカントの平和思想にあるといわれ、カント的国際主義とも言われる。しかしながら、なぜ民主主義体制が国際関係における戦争を抑制するのかについては議論の余地がある。

◯覇権モデル
覇権モデル(hegemony model)とは、ある地域内で他の国々を圧倒するだけの国力を持つ「覇権国家」が存在し、それが周辺諸国を主導的に指導する国際秩序のモデルのひとつである。
この覇権モデルはさらに二種類に区分される。直接的に軍事力などを用いて諸国を支配する「専制帝国」は周辺国を属国として扱い、属国の反抗があれば武力で鎮圧する。間接的に経済力などを用いて諸国を支配的に指導する「民主帝国」(別名「リベラル・エンパイア」もしくは「帝国的共和国」)は、周辺諸国の協力を得ながら広い地域に利害が共通する安全保障体制と、国際的な経済の枠組みを提供し、勢力圏の諸国の安定を目指す。

◯勢力均衡モデル
勢力均衡モデル(balance of power model)とは、一つの勢力(国家、国家群)が強大化した場合、その他の国々は連合化や軍事力の増強などによって、勢力を拮抗しようとする現象のモデルである。
この勢力均衡モデルはさらに「二極型勢力均衡モデル」と「多極型勢力均衡モデル」がある。二極型勢力均衡モデルとは、二つの勢力のみが主に勢力を均衡させようとするものであり、冷戦期の米国とソ連の関係がこれにあたると考えられているが、歴史的には稀な場合である。多極型勢力均衡モデルは、複数の勢力が同時に勢力を拡張し、均衡させようとするものである。歴史的にはこの場合が多く、第一次世界大戦第二次世界大戦はこのモデルに合致すると考えられている。

◯大国間協調モデル
多極型勢力均衡モデルの発展モデルであり、いくつかの大国が利害関係については相互に妥協・協調し、処理して秩序を維持するモデルである。1815年のウィーン会議以降から第一次世界大戦までの約1世紀の間のヨーロッパは基本的に多極型勢力均衡モデルであると考えられているが、同時に大国間協調モデルが並存していた時代でもあるとされている。しかし、アフリカ植民地分割を議題とするベルリン会議でどうしても協調できない問題が顕在化してしまい、三国同盟三国協商の国際関係が成立した時点で多極型勢力均衡モデルへと逆行していった。

◯集団安全保障モデル
集団安全保障モデルとは特定の体制に国家が入り、原則的に武力行使を禁じ、もし構成国がこれを違反すればその他の構成国が協調して軍事、経済などの手段によって制裁を加える国際安全保障モデルである。勢力均衡モデルによって世界大戦をもたらしたという反省に基づいて、このモデルが国際連合という形で実現化されることとなった。ただし地域連合においても、集団安全保障モデルが採用されている場合があり、米州機構アフリカ統一機構(現アフリカ連合)、北大西洋条約機構ワルシャワ条約機構が挙げられ、地域集団防衛条約機構と呼ばれる。

 

参照元Wikipedia安全保障論